打ち出の小槌はなぜ「鬼」が持つ?

 打ち出の小槌といえば、伝説上の槌(つち)。ハンマーだ。これを振ることで、お金、品物、願望、希望などが出てくる。富、福を与えてくれるすごいアイテム。日本の文化にも相当関わっています。

 ところが、昔話で打ち出の小槌を持っているのは「鬼」。

 鬼といえば、節分にも登場してくる嫌われ者で、非常に恐ろしい存在。厄・害をもたらす。そうした存在がなぜ、富や福をもたらす打ち出の小槌を持っているのでしょうか。

実は、鬼は「おに」というが、元々は「おぬ」。「いない」ということ。目には見えない存在なのです。諸説はありますが、鬼は「死者の魂」。死霊。そうした死後の存在が、我々の感性に深く根付いているのは間違いないと思います。

中国で形づくられた「鬼」の観念が6世紀ごろに日本に伝わり、日本古来の「人の力を超えた存在」と重なって今の「鬼」になったようなのです。

 目に見えない。「ない」(おぬ)からこそ、よくわからないために怖い。怖いがために、単純に鬼の観念自体を否定する人も多いと思います。

 我々は普通、自分の目に見えないものは簡単に信じられないですよね。と同時に、何となく気味が悪い。得体が知れない。不安だ。恐怖さえ感じる。

 でも、その見えない、得体のしれないものこそがまさに、お金、願望、希望などとつながっているのだ。サン=テグジュペリの星の王子さまではないが「大切なものは目には見えない」のだ。